「成長から成熟へ」を読んで著者の天野祐吉さんという人物が気になったので他の書籍を買ってみた.
概要
2000年から2001年にかけて明治学院大学の国際学科で広告論の講義をまとめたもの.
20世紀を広告という窓からみていく.それは大量生産大量消費大量流通の時代だったが, その媒体となったのが”広告”だから.
機能的差異化が1960年終わり頃に行き詰まる.
モノをモノとしてではなく夢やイメージとして売るようになり, 欲望を操作.
広告はジャーナリズムの一分野でありジャーナリズムが報道と批評にあるとすれば,時代を賑わした広告達は生活批評であり時代批評だった.
「批評とは人の作品をダシにして己を語ることではないか」己を語ることが己を超え, 同時代えの言葉になる.同時代について語りたい内容が己になければできない.
同時代の言葉になることがジャーナリズムであり広告の理想像である.
百貨店の歴史
フォードの顧客に対する姿勢
商標の歴史
花王 : リンク
森永製菓 : リンク
日清カップヌードルのCM アメリカのCM, イギリスのCM
スモカ歯磨
アンクルトリス
NASAの月面着陸
広告の明日
感想
広告の存在意義とその過程について知ることができた.
さまざまなメーカーのCMや新聞記事などの広告が紹介されているが, それぞれにいきいきとした人間味が感じられた.
企業の顔が見えるような.
いろんな企業のWEBサイトをみると顔の整った若い男女や外国人など取り繕った無駄のない画像が並ぶ.
人間味は感じられない. リアリティもない.
いま思えばスーパーの野菜売り場で生産者の顔が掲載されていることがあるが, 素朴で良い取り組みではないかと思った.
トヨタの社長は「本当はガソリン臭くて野性味があふいれたクルマが好きなんです」のように言った時があるが
人間味があってその人間性に惹かれる人も多いはず. 正しく企業のイメージアップにつながっていると思った.
どんな人が作ったのかを想像し消費する.
自分が何かを買うということはその人との価値の交換になり繋がりができる. その人に貢献できる.
批評性について天野さんは以下のようにも述べている. (茂木さんとの対談だったかな)
「ユーモアのある批評でないと批判になりやすい. 批判は攻撃的であり効果が低い.
私は批評は作り手に向かって書いている. よりよい作品をつくるための糧として.」
批評は建設的で健全な意見であってよりよい作品のためには必要だ.
主観的な批判や肯定はその人の自己満足でしかない.
批評は製品がどのように優れているのか劣っているのかを誠実にテクノロジーやユーモラスな表現で批評し合う状態が良いのかも.
個人的に広告は作者の意図がどうであるかが大事だと思うようになった.
”おいしい生活” のように意識を変えたいという意図であればユーモア溢れる表現は人の心を掴むし,
自分のモノやサービスが本当に良いのであれば理由を明確に表現すればいい.
人の目を惹きたいという意図だと製品や企業と無関係の有名人を使ったり, 誇張した文章などの空虚な広告になりやすい.
見てすぐに分かるし宣伝というより個人的にはむしろ悪評になる.
騙そうとしているか, 正しく伝えようとしているかの違い. 前者は利己的で後者は消費者の立場であったり, 正しく競争させようとするような利他的な振る舞い.
しかし差別化しないと見てもらえない.
理想論でしかないかもしれないけど, 一人の消費者として自分はそういう目線で広告を見ている.